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ひろ子さんの藍
あつしおかのう あい
〜熱塩加納より藍をこめて〜
そもそも熱塩加納ってどんなとこ?
熱塩加納は、県北西部に位置し、熱塩加納森田組公式ホームページから引用すれば 「左に飯豊山(いいで)、右に磐梯山(ばんだい)を望む風光明媚な盆地を豊富な山水が潤す。
昭和50年代から取り組む有機農業は40年以上続く国内の先駆け」とある。
上記の文と左図
熱塩加納 森田組公式ホームページより引用
https://ak.nowdo.com/ (参照 2024年9月2日)
知りたい ! 山本裕子さん!!
裕子さん(以下、ひろ子さん」とする)は、生まれも育ちも熱塩加納。 葉大根、小松菜、万願寺とうがらし、きゅうり、なす、落花生、白や薄紫色など多様な花が咲く様々な種類のじゃがいも、 さつまいも、里芋、たまねぎ、サヤエンドウ、ズッキーニ、バジル、ピーマン、ミニトマト、インゲン、オクラ、 果肉がオレンジ色の珍しいスイカ、同じくスイカで銀の卵と言われるアドロミスクス、ニンニク、シソ、など 様々な作物を育てている。
そして、農作業は一人で行い、その体力は計り知れず、とてもお元気である。 そして、ジョークを交えてお話する、とてもチャーミングで優しい方である。
笑顔が素敵な
ひろ子さん
(金子撮影 2024年9月14日)
藍について
「草木染めってなあに?」
まず、藍について語る前にそれを語る上で欠かせない「草木染め」について紹介しよう。
これは、草や木といった天然の色素を使って染めることであり、藍染めも、後に語る藍の生葉染めも草木染めの一種だ。
染めの作業は、染料に入れる回数や時間によって色の出方が異なり、それが多くなるほど色が濃くなる。
また、染める場所で色の違いが生み出され、素材によっても全く違う仕上がりになる。
また、同じ植物でも時期によって色合いが全く異なってくるのも大変興味深い。
一般的には動物性繊維が染まりやすい。その中でも比較的簡単に染まるのは絹(シルク)である。
また、動物性の素材には酢の効果が色落ちを防ぐために使われる場合もあるが、藍染めには使われない。 色を混ぜて染めるには、原液の段階で色々なものを混ぜる方法と素材に別な染料を染め重ねる方法がある。
草木染めをすると、ほぼ茶色か黄色になることが多い。 その中で特に栗の皮やセイタカアワダチソウなどが焙煎をせずにできるので初心者にとって扱いやすい。
ちなみに、よもぎ、栗はどの部分も使える。
紅花に関しては黄色くも赤くも染まり、染める素材によっても色の出方が違ってくる。
そして、意外にもほとんどの草木は本来の色である緑色には染められない。 そのためには、最初に黄肌染めで真っ黄色に染めた上で藍染めをする。
このように、一際手間がかかる色であることから、江戸の庶民には馴染みが薄く、寺社など僅かな所でしか使われなかった。 紫に染めるには希少な紫の根が使われている。
また同じ植物でも焙煎の違いで色が異なる。 主に環境への被害が無い、ミョウバン焙煎、鉄焙煎の2つが代表的だ。
「藍の はじまり」
次に今回の記事の主題となる「藍」について。
2018年、藍の栽培開始。 きっかけは、染色と織物を営む市内の染織工房「「れんが」の紹介で、郡山女子大教授の斎藤先生から 藍の栽培依頼をされたこと。しかし、ひろ子さんはそれまで藍には全く関心がなかったそうだ。
「藍よ 美しく」
ひろ子さんの地域では、藍の葉が繁茂する前の7月初旬に刈り取る。 花芽が出ると濃い色が出ないためであるという。なお、藍はタデ科の植物である。
藍染めは、刈り取った葉を乾燥〜発酵させる。 発酵させることで特有の青色が出る。 発酵は日光に当て続けることで菌の作用が増して色の深みも増すため、冬は発酵に適していない。
大量の葉からごく少量の染料液しか取れず非常に貴重であり、また、藍の葉は雨に弱く、天の恵みが重要。 去年の藍は高温障害のせいで育ちにくかったそうだ。
藍の
葉
(金子撮影 2024年6月15日)
藍の
花
(金子撮影 2024年9月14日)
さらに、熱塩加納の公民館で行った藍の生葉染め体験(次項参照)における小野先生によると、藍は花が咲く前の 葉の状態が色素を最も含んでいるため、これを使わないと色が濃くならないという。 また、藍は殺菌効果もある。具体的にはジーンズが藍色なのも虫除けの効果が期待されるからであり、 昔は幼児の服に藍を使っていたりもしていた。
藍染めの日本における歴史は古い。遡ること江戸時代では、藍の葉を臼でついて発酵させた上で乾燥し固めた藍玉 が流通しており、特に淡路島が盛んであった。さらに、その藍玉を主に日本酒と一緒に甕に入れることで、糖分が 藍に栄養を蓄えさせ、発酵にも大きく役立っていた。昔ながらの知恵である。 しかし、藍甕は、逐一その様子を確認しなければならず、非常に大変である。
また、藍染めは日本独自のものでなく世界中で行われている。主に、インドやインドネシアといった東南アジアの 国々で盛んである。しかし、その中でも日本の藍は「JAPAN BLUE」として名高く、世界中で親しまれている。 ちなみに、福島県では会津の田島の伝統産業、喜多方は染織工房「れんが」が有名だ。
「とってもお手軽 生葉染め」
次は、藍の「「生葉染め」について。 生葉染めとは通常の乾燥〜発酵させて染料液を作り出す方法とは異なり、葉を刈り取った後にミキサーに入れて、 染料液を作り出す。このように、発酵いらずの誰でも簡単にできる、お手軽な染め方なのだ。 ちなみに、生葉染めをひろ子さんにもちかけた方は前述した小野先生である。
まず、生葉染めの工程について簡単に説明する。
1.染料の元となる藍の葉を茎から切り取って集める
2.集めた葉についた泥を落とすために軽く水ですすぐ
3.葉をミキサーに1リットルの水と共に入れて、粉砕する
4.粉砕して作った溶液をポリエステルのろ過布に入れてろ過
5.染める素材を水によくつけて絞り、これを広げたまま藍染め液につけて、ムラにならないように動かし
時々絞って空気に触れさせるということを10分から20分ほど繰り返す
※染める対象の2〜5倍の重量の葉があれば十分
空気に触れさせることは色を濃くするために必要
6.染め終わったものを青色に近くなるまで流水で洗い、よく絞る
7.干して完成
藍の生葉染めは通常の藍染めに比べて染まり方が薄く、色の褪せやすさも大きく繊細である。 しかしその一方で、短時間で簡単に染められるという利点もある。
実際に、ひろ子さんご自身が違いを説明するため、通常の藍染めした布と生葉染めした布を持ってきてくださった。 比較すると生葉染めしたものは透き通ったような薄い水色であり、通常のものはかなり濃い青色であった。
ちなみに、ひろ子さんは生葉染めで様々な色の違いを出すのが楽しみであり、特にお気に入りの植物は、 セイタカアワダチソウ、マリーゴールドということだ。
通常の藍染め
生葉染め
(金子撮影 2024年5月19日)
「藍って 食べられるの?!」
さらに、驚くべきことに藍は染料としてではなく、お茶や粉末にして、ふりかけ、チョコレートといった お菓子に入れるなど、食用としても利用できる。そして、ひろ子さんが栽培している藍は食用藍として 香りが良いと、前述した斎藤先生が絶賛している。ちなみに、斎藤先生は、食用藍の研究の第一人者である。
藍の茶葉
私たちも実際に藍のお茶を頂いた。 風味の癖は無く、通常の緑茶と色の面で比べると、わずかながら黄みが強いだけであった。 香りは僅かに刺激臭を感じ、藁に近い匂いであった。 味はまろやかで、中国のプーアル茶やジャスミン茶といったお茶に近い。 ドクダミ茶よりはとても飲みやすい印象を受けた。 また、医学的根拠は無いが、これを飲んでいる人は血糖値が下がり、健康に良い効果があるんだとか…
お茶を入れるひろ子さん
藍のお茶
(金子撮影 2024年5月19日)
「藍がつまった ひろ子さんの農業」
最後に、熱塩加納における藍の展望について。
ひろ子さんの夢は、藍で地域おこしをすることだ。なぜなら、藍染めのもつ魅力はもちろんだが、 栽培技術もそれほど難しくない上に、熱塩加納はひらけた土地も多いためである。
さらに、ひろ子さんは藍の花が咲いた時、夢の森花の散歩みち(熱塩加納総合支所向かい)の道路沿いに 一斉に植えたら景観も良くなり、当地域の魅力も向上するのではないかと強く感じたそうだ。
また、誰でも気軽に参加できる藍染めの体験会や工房での藍染めの展示及び藍を使ったイベント、 藍の美しいピンクの花を観賞用として家に飾ることも流行ったら良いという。 そして、そのきっかけづくりのために藍の花を公民館に飾っている。しかし、そのことに行政が注目するかが 大きな問題である。まだ熱塩加納においては、イベントで小規模に宣伝する程度であり、市場では大々的に売り出していない。 これを受けて、磐梯道の駅で、健康茶として藍の粉末を含めた様々な茶葉をブレンドして、実験的に 売り出す取り組みがあるため、それを参考にすべきとのことだ。
ひろ子さんご自身の展望としては、今後畑で育ててみたい作物は特には無いが、体が動くうちは農業を続けたいということだ。 ひろ子さんにはいつまでもお元気でいてほしい。
ひろ子さんはこんなことも?! 【番外編】
ここからは、ひろ子さんの
藍以外の主な取り組み
について。
「落花生」
冒頭にもあるように広大な農地で様々な種類の農作物を栽培されているが、特に代表的なものとして落花生を挙げる。
落花生は主に、湯で落花生として、合計3s分の種を蒔いている。きっかけとしては、東日本大震災の前年に 「おくや」という加工会社の紹介。その後、震災があって販路が遮断され中断しかけたが、なんとか再開した。
品種は「おおまさり」、甘味が強い上にシンプルに大きいためインパクトがある。実際に茹でたものを試食させて 頂いたのだが、大粒で食べ応えがあり、ホクホクしていて絶品だった。
落花生
「おおまさり」
(金子撮影 2024年9月14日)
「裂き織り」
そもそも藍を始める前から冒頭でも紹介した、染織工房「れんが」で織物をしていた。
裂き織りという織り方は農民の生活の知恵であり、捨ててしまうような布団のカバーといった布を裂いて横糸にし、 帯にするといったリサイクルの典型的なもの。まさに昔ながらの生活の知恵であるといえる。
手づくりの
裂き織り
(金子撮影 2024年5月19日)
「押し花」
ヨモギ
と
ハハコグサ
など野草の押し花
(金子撮影 2024年5月19日)
記事作成者
金子佳幸
大山絢也
(C)福島大学 行政政策学類
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